創刊当時、雑誌MdNの取材をお断りした。その理由。

むかし、むかしの事。当時はMac上で動かせる3Dは、ほぼ無かったという状況でお読みいただければと思います。

 

これは1992年MdNのImageprocessingという企画でした。苦労して開発してきたノウハウを全てを公開して欲しいと編集者に頼まれたときは悩みました。何故なら当時、私は小さな気持ちでライバルを自ら作り上げてしまうと思えていたからです。しかし決心しました。悩みに悩んだ、あげく決心をしました。「人は人と繋がっていると。」今後のクリエイティブ業界に微力ながらでも進化に貢献できるのなら、どこにもでていない、神髄までのノウハウをデザイナー達に伝えようと。

以下がそうです。とても懐かしいです。でも、昨日の出来事のようです。

 

(柴山信広/アートディレクター)


いささか気恥ずかしいが24年前である。

広告をアートディレクションする人はいるが、CGまで制作するアートディレクターはその当時は奥村氏など限られた人だけが手がけていた。

 

当時の広告業界は競合プレゼンで、まずはプレゼンそのものに勝つことから始まるのがアートディレクターの役割。おしなべて代理店の営業も含め大掛かりな会議が必要だ。

 

競争相手は4社競合だったと思う。これは始まりにしか過ぎない。ひとつの広告を仕上げるのは相当の時間と労力と能力も必要だ。さらに、当時この恐ろしく遅い処理能力のPCで制作期間内で納品をしないと、その広告媒体は白紙になってしまうという大事件の責任も取らなければいけないのがアートディレクターである。CGのパートだけとは違うプレッシャーと戦うのである。

 

当時のApplle社製のMacⅡfxのクロック周波数は今のiPhoneに比べたら、赤ん坊を通り越して昆虫の心臓レベルであった。どちらが昆虫かって?もちろんMacⅡfx。これが125万円。3Dソフトが175万円。3Dの演算を早めるRISCボードが一枚120万円。それが3枚以上必要。メモリーが1Gではなく、1Mで7万円。メモリー8枚で8Mで56万円。さらに周辺機材がかかる。21inchディスプレーが100万円。それを写す為のボードが100万円。たったIGのハードディスクが100万円。 MOドライブが100万円。MOディスクが一枚7万円。私には家一件たつとも思えるこんなMacコンピュータの時代です。信じられないですよね。

個人で購入するには、自分の選択した機材が見事に仕事を成し遂げることを信じないと買えない訳です。

 

今みたいに情報は無いのですが。これを使って3Dでレンダリングを成し遂げる決意をする。

間違ったら自殺行為な訳です。製作中は、ものすごい忍耐力が必要。水漏れと戦いながら黒部ダムをつくった人達の逸話がありますが、モデリングをしてるときにも画面でマウスが小刻みにしか動かないので、ずーっとマウス持っていなければいけないのです。手がつりますよ。

 

そんな超スリリングな状況を走り続けて出来上がったのが、この広告になります。

 

この時代はイラストレータ88、Photoshop1.0。皆さん知ってますか、フロッピーで配布です。

 

当時、自分のコンピュータでデスクトップ上で完全にデザイン、レイアウト、3DのCG、版下フィルム納品は日本初の試みだった。日本の広告でのCGとDTPはここから始まったといっても良いんじゃないかと思う。以下が当時の原稿。

 

 

Imageprocessing

3Dグラフィックソフトを操る魅力は、何もない暗闇の世界に物体を創造し、それに光を与えるという行為の中にあるのかもしれない。この魅力にとりつかれた柴山信広氏は、広告用の商品を3Dの世界に持ち込んでしまったし、加藤直之氏は沈黙の美女を3Dの世界に誕生させてしまった。彼らの作品からは、制作時のイマジネーションがダイレクトに伝わってくるようだ。さて、緻密さと忍耐強さが要求される制作の裏側を見ていこう。

 

1.            無菌室での撮影感覚

現実に存在するものを3Dの世界に取り込む

昔から“光と影”がある程度表現されているビジュアルが好きだった私にとって、“光と影を一から創り出すソフト”であるShadeIIは、長年夢見ていたソフトそのものであった、このShadeIIを使った最近の仕事の中から、実在の商品を重力も空気もないコンピュータ世界の中に取り込むことで広告表現として成立させた服部セイコーの時計「ALBA」の雑誌広告を例に取り、3Dグラフィックスの世界を紹介したい。

(柴山信広/アートディレクター)

広告表現のビジュアルには、写真が多く使われる。写真は、「たしかにそこにそのモノが存在していた」という力(存在感)を利用して広告を作る方向である。もちろん未来の出来事や、今頭の中にあるイメージをカメラで撮影することは出来ない。しかし、3DCGでなら頭の中にある未来や現在進行形のイメージを制作できるのではないかという気がしている。

Dグラフィックス(を含むCG全般)は、主に架空の物体を架空の世界の中で表現することに使われてきた。しかし、現在の3Dグラフィックスでは、パーソナルコンピュータのレベルであっても“ない”ものを“ある”もののようにリアルに写すことができるような段階になってきている。モックアップが出来上がっている状態なら、これから出来上がってくる商品の画像を作成できる可能性があるのだ。

 

    デジタルのテクスチャー

ただ、リアルといっても、今の段階のCGには明らかに写真とは違った独特のテクスチャーがある。デジタルのテクスチャー。これが広告の場合、メリットにもなるし、ウィークポイントにもなる。しかし、どこかツルッとしているこのテクスチャーが商品と一致したときには、今までにない効果が生まれるのである。

今回のセイコーの時計では、クライアントの希望として、「一般的な写真表現、映像表現ではなく、仕上がりにエレクトリックなトーンを出したい。バーチャルリアリティ的な味、具体的にはモニター上に見られるトーンを雑誌広告の上で出したい」というものだった。シチュエイションも、「不思議な時間、不思議な空間に商品を浮かべたい」という、写真よりもまさに3Dグラフィックスによる表現を前提とし、3D倉ふぃクスの効果を狙ったものであったために、比較的スムーズに意志の疎通が出来た。

 

    モデリング

ここからは実際の作業を見ていこう。

広告制作の依頼は、撮影商品(最終モックアップ)が出来上がった時点できている。制作に当たっては、図面20枚程度と撮影商品の提供を受けた。

具体的な作成手順としては、まず図面をすべてスキャナで読み込む。ShadeIIのモデリング画面に“Get Template”でこの図面(PICT)を読み込み、トレースしていく。基本的に平面で読み込み、3面図上で画面を切り替えながら厚みを付けていく。形状モデルは見ての通り、ワイヤーフレーム上になる。

図面はほとんど部品ごとにバラバラに描かれている。また、各図面はそれぞれまちまちの縮尺で描かれているが、とりあえず描きやすいサイズで入力してしまい、組み立てるときに拡大・縮小(リサイズ)をした。拡大・縮小にあたっては、縮尺率から換算して数値入力をすることもあるが、撮影商品を見ながら目分量でやっていくことも多い。だんだんと部品を組み合わせていき、それらを新たな1組の部品として登録していく。

当然、表面に見える部分だけをモデリングしていったのだが、部品数は最終的には200点を超えてしまった。

 

    マッピング

モデリングと同時にマッピングデータも作っていく。マッピングとは、作成した物体に色や模様を与えるための方法だ。3Dではモデルに直接絵を描くのではない。このマッピングには大きく2つの方法がある。ラッピング法と投影法である。ラッピング法は文字どおり物体をその絵で包み込む。投影法ではx軸、y軸、z軸のうちのある方向から用意した絵を写しこむ。ともにレンダリングのときに初めて色がつく。傾きはもちろん、影などもすべて計算して、モデルの表面に絵がつく。マッピングのためのデータは、モデリングデータとは別にPICTで作成しておく必要がある。

ここでマッピングをしたのは、文字盤とリング状の目盛り部分、中に浮く球体、そして背景。文字盤の部分は絵として作成し、投影マッピングしてある。ロゴなどの文字部分は清刷りをもらい、スキャナで取り込んだ後、Illustratorでトレースした。文字盤の目盛りなどもIllustratorで正確に作成した。

 

[Tips]

45度の斜面に刻まれた目盛りと数字は、単純に投影マッピングしてはそれらしく見えない。実際の文字より縦方向に伸びてしまうことになる。そこで、45度の斜面上で美しい天地サイズになるように計算して平体をかけた文字でマッピングデータを用意した。

 

    質感

模様などがない均質なモデルには、マッピングは不要だ。モデリングデータそれぞれに質感の設定値と色を設定してレンダリングすれば質感のある物体として描かれる。時計本体やベルトの部分はこの方法で質感、色を出している。質感の設定はSurfaceウィンドウで行う。初期設定では色はすべて白になっているので、必要な部分にだけ色を指定する。金色を表現するにはBaseColorを黒にし、Highlight70Size46Reflect20、そしてMetalic82でしぶい黄色に指定した。同じように銀色はBaseColorを黒に、Highlight56Size56Reflect24Metalic88で、これは白のままとしている。

部分的にモデリングが出来上がると、感じをつかむためにスキャンラインモードでレンダリングしてみる。

 

    背景

背景の部分はバンプマッピングの手法を用いている。バンプマッピングは自然な凸凹を表すための方法だ。ここでは2枚のPICTデータを用いて作成している。まず、色ムラの絵を描く。それを元にして256階調グレーのデータを作成。そこに黒い線で目盛り上のグラフィックを2つ描く最初の色ムラの絵と、このグレーの絵を使ってバンプマッピングを行うのだが、このときグレーの絵の中の暗い部分が盛り上がるように設定してある。

 

[Tips]

バンプマッピングでも、レンダリングと同じように光源を指定しなくてはならないが、あとでこの背景の上に時計を浮かすことを考えると、時計に当てる光源と方向をそろえておく必要がある。そうしないと不自然な世界になってしまうからだ。

こうして作られた凸凹の背景は、実は凸凹に見えるだけの平面画像だ。これをマッピングデータとして利用する。背景に平面の板を置き、これに凸凹に見える画像を投影することで、立体的な背景ができる。

 

    レンダリングの準備

部品が揃ったところでレイトレーシングモードでレンダリングするのだが、このとき、System、アプリケーション、モデリングデータ、マッピングデータの合計メモリサイズを8MB以内に抑える必要がある。制作当時試用していたShadeII専用のRISCボードが8MBまでしか扱えなかったからだ。たとえば、モデリングデータとマッピングデータで32MBというデータを作った場合、RISCボードを使用した高速なレンダリングは不可能になってします。広告のようにスピードを要求される仕事では、RISCボードを使用しない処理は時間がかかりすぎて現実的ではないだろう。RISCボードの制限には従わざるをえない。(ちなみに、現在は16MBRISCボードも誕生している)

最初はマッピングデータをかなり巨大に作成したために、全くソフトが動いてくれなかった。データサイズが大きすぎたのだ。システムフォルダからINITを次々とはずし、漢字Talkもクリップボードすらもない、システムとファインダだけが入ったシステムフォルダにし、マッピングデータをリサイズしていった。(当然、Macのインターフェースは宇宙文字にように理解できない状態になるので、コントロールパネルは全て理解していないと作業はできないことになる)さらに、数多い部品をまとめていき(ブラウザの整理)、見えない部分の部品をはずしていって、やっとRISCボード上でレンダリング可能なサイズに直した。

部分的にレンダリングし、いくつかの画像をPhotoshopなどで合成するという方法もあるだろうが、やはり1回のレンダリングで完成させる方法を用いたほうが後の修正、訂正にもフレキシブルに対応できる。

レンダリングには物体の配置、光源の設定、そしてカメラレンズの選定などが必要だ。このあたりはスタジオでの撮影とまったく同じ感覚である。スタジオでの経験が多い人はセットアップがうまいだろう。ソフト上の仮想カメラレンズは9ミリから720ミリまで用意されている。今回は広角のレンズを選定している。

 

    レンダリング

いよいよレンダリングに入る。レイトレーシングによるレンダリングには、2つのモードが用意されている。実際のピクセル数でレンダリングするモードと、その64分の1のサイズでのレンダリングを行うモードである。実際には5,800×4,696ピクセルで仕上げることにしたのだが、その前に64分の1サイズつまり725×587ピクセルでレンダリングする。これは、もちろん仕上がりの感じをつかむために必ず行うべきことだが、このときにレンダリングにかかった時間をストップウォッチで計測しておくといい。かかった時間の64倍が実サイズでのレンダリングにかかる時間の目安となるからだ。

この時計の場合、MacintoshIIfxに、ShadeII専用ボード“RISCボードのNew Super”を4枚フル実装して、4日で仕上がると踏んだのだが、実際には4日半かかってしまった。

レンダリングした画像はPICTデータとなる。これをPhotoshopに読み込み、手作業を加えて完成させる。微妙な形状の変更を行い、雷の光を描き加え、金属部分のテカリの強調をしている。

 

    校正出力

出力に用いたのはインクジェット式のIRISプリンタ。(当時は丸紅商社が輸入していて,

確か3000万円ぐらいしていた。それをハイパークラフトという会社が所有していたので頼み込んだ)ソフトウェアはPhotoshop。用紙はA3サイズだ。だいたい作品はこのサイズでIRIS出力している。プレゼンテーションに使うには、このくらいのサイズがないと迫力がないからだ。

ここでクライアントのチェックが入る。精密機器メーカーなので設計図と首っ引きの細かなチェックが入る。校正紙は赤字で埋まってしまった。外形のカーブの違いなど、形状に対する修正のほか、文字盤の中にあるクロノグラフ部分(3つの小さな円の部分)に出る光彩の強調、カメラアングルの修正などがあった。形状部分に関しては特に要望がきびしく、現在の3Dグラフィックスソフトで表現可能な極限までを要求される。ここまでのモデリングに2週間かかっているが、ここで入った訂正を終えるのにさらに2週間を要してしまった。しかも、単なる2週間ではなく徹夜を含んだ2週間であり、これは正直キツかった。

オペレーションの時間、レンダリングの時間は、パソコンレベルでの3Dグラフィックスを“仕事”として成立させるために大きな問題だろう。

最終原稿にするために、Photoshopでレタッチをして仕上げるのには、さらに3日間を要している。カメラマンなら基本的に商品を提供してもらい、撮影だけの責任を負えばよいが、3D画像を作り上げるためには、針のサイズや何百点ものパーツの形状、質感すべてに責任を持たなくてはならず、なみ大抵の仕事量ではない。

 

    出力

最終原稿は4×5のカラーフィルムにして納品した。Macintoshによる4色分版フィルム は、まだまだどこの印刷所でも受け入れられるというものになっていないからだ。

 

    CG画像の値段とこれからの展開

3D画像を制作するまでで、1ヶ月以上の日数がかかっている。いったい、この3D画像の料金はいくらが適正なのだろう。

スタジオで撮影した場合の制作費を考えてみよう。スタイリストのギャラ、オブジェの制作費、スタジオ代などがかかり、カメラマンの撮影料、さらにディレクション料を加えた値段が広告写真の撮影料金になる。CGの場合を撮影と比較するのはつらいが、アートディレクターは、現実的にはクライアントのきめた予算繰りの中でビジュアルをいかに写真にするか、CGにするか、あるいはノンビジュアルにするかを決定していると思う。

現在、CGはまだ比較的高価だと思われているが、一昔前のルーカスフィルムスタジオなどに頼んでたときよりは断然安価になってきている。さらに、今後は3DCGの分業化も進むだろう。例えば大道具・小道具のような役割を担う、モデリングを担当するモデラー、ロケハン効果を作り上げる背景作りのバックグラウンダー、それらをすべて統合して撮影するCGカメラマン、ライトマン、レンダリング担当者、それぞれの専門家が揃う時代になるのではないかと思う。そうなれば、また作業の形態も変わり、新たな質・力を持った画像が現れてくるだろうが、それに対応した制作費もまた算出され直さなくてはないだろう。

いま4Dでは3次元立体スキャナを使用して形状を取り込むプロジェクトも進行しているのだが、こういった技術もまた新たな制作形態を我々に提示してくるだろう。

 

    広告展開

この時計の3DCGは、車内吊り広告、雑誌広告(2P1P)に使われた。デザイン、版下製作も我々4Dの仕事である。

おかげさまで、クライアントのウケがよかっただけでなく商品の売り上げもいいようで、嬉しく思っている。中高生が雑誌広告を切り抜いて店に持ってきて、この時計を買っていったこともあったようだ。

また、当初の予定にはなかったのだが、この画像はビルボード広告としても使用されている。最終原稿がフィルムのため。これらにもすぐに対応出来ている。3DCG画像が大きなビルボードを飾るなどとは数年前までは考えてもみなかったことで、しかもそれをMacintoshで制作したということは感慨深いものがある。

現在は、ShadeIIのアニメーション機能を使ってアニメーションの試作をしている。手抜きをせずにモデリングしてあるために、比較的容易にアニメーションを作り上げることが出来る。3Dの世界にどんな可能性が生まれるか、これからもいろいろと試していきたいと思っている。